ペリドット peridot
Peridot |
ペリドット peridotとは
和名 橄欖石(カンランセキ)
ペリドット という名前は、意外にも最近ついた名前です。
黄色味が強いものをクリソライト(chrysolite)・きれいな黄緑色のものをオリビン(olivine)・オリーブグリーンのものをペリドット(peridot)と微妙に名前が使い分けられていました。
更に、アメリカではクリソライトという名前がメインで使われ、ヨーロッパ圏ではオリビンという名称がメインに使われていました。
各国で名称が異なっており解りづらいということで名称が統一され、宝石の名前としてはペリドットとなりました。
鉱物的にはオリビンの名前を使うことが多く、このオリビンもグループ名の名称で、さらに細かく分かれています。
そのグループの中でも注目すべきは、
- 鉄かんらん石 Fe2SiO4(Fayalite/ファイヤライト)
- 苦土かんらん石 Mg2SiO4(Forsterite/フォルステライト)
この2つは連続固溶体を作ります。
固溶体とは2つ以上の元素が融け合って混じり合い均一になっているものをいいます。
黄色味が強いものはマグネシウム(Mg)が多く、緑色が濃いものほど鉄(Fe)が多くなります。
緑色そのものの色味は微量の鉄分がケイ酸マグネシウムに含まれることによります。
宝石質のものは鉄分が多く含まれている物です。
複屈折
この石の特徴は、なんといっても複屈折。
キラキラ度が増す値です。
光が石の中を進むとき、速さや方向が変化する値を屈折率といいますが、光が石の中に入ったとき、光の進む方向がいくつかに分かれていることを複屈折といいます。
透明のカルサイトを字が書いてある紙の上に置き、上からみると文字が二重に見えることが有名です。
ペリドットの場合、光の方向が2方向に進むほど、複屈折率が大きい事が特徴です。
産地 産状
かんらん石は玄武岩など、火成岩の中に見られます。
ちなみに、火成岩は大きく火山岩と深成岩に分けられます。
-
火山岩 マグマが吹き出し、地表や地表近くで急激に冷えたもの
玄武岩・安山岩・デイサイト・流紋岩 等 -
深成岩 マグマが地下でゆっくり固まってできたもの
花崗岩・閃緑岩・斑糲岩 等
黒や灰色の岩石の中に小さい粒状となって見られます。また、このかんらん石は上部マントルの主要な鉱物です。
地球の構造 |
マグマが吹き出す時、上部マントルにあったかんらん石がマグマと一緒に吹き出し、マグマが冷えて玄武岩となり玄武岩中に緑色のかんらん石の粒が観察できます。
このように、マグマが地表に上がってくる途中で道すがら岩石などを巻き込み、地表に現れ火成岩の中に含まれることになった岩石を捕獲岩(マントル捕獲岩)といいます。
Olivine in Basalt Gila Co., Arizona, U.S.A |
Olivine in Basalt Gila Co., Arizona, U.S.A |
Olivine in Basalt Gila Co., Arizona, U.S.A |
Olivine in Basalt Gila Co., Arizona, U.S.A |
マグマが吹き出す以外にも、塩基性岩の初期に生成されるため、玄武岩や斑糲岩とともに観察されます。
また、シリカやマグネシウムを含んだドロマイト(苦灰石
セメント等の材料)が変成作用を受けできることもあるそうです。
他に鉄をメインとした隕石の構成成分(石鉄隕石パラサイト)としても見られます。
また、傷もつき易いので取り扱いに注意して下さい。
基礎データ
- 化学組成 珪酸塩鉱物 (Mg,Fe)2SiO4
- 色 緑色~黄色
- 条痕 白色
- 結晶系 斜方晶系
- へき開 不明瞭
- 硬度 6.5~7
- 比重 3.2~3.3
ペリドットの意味 いわれ
緑色の中に黄金の輝きを放つペリドット。
19世紀に紅海のセントジョン島で再発見されるまで、”トパゾス”→トパーズの名前で採掘されていました。
まだトパゾスと呼ばれていた時代…
トパゾスに関して述べられた書物には、”月を感じる”
”煮えたぎる熱湯を鎮める”と書かれていました。
”月を感じる”とは、精神病によいと解釈するそうです。
(月と心は密接なつながりを持っていることから。)
”煮えたぎる熱湯を鎮める”とは心の乱れた状態を鎮める・冷静になると解釈するそう。
このことから後に、”熱湯に入れると冷水になる。”と別の書物で書かれ、解釈としては色欲を和らげると解釈が追加されています。
そして、この石の石言葉”夫婦の幸せ”→色欲を和らげる→浮気防止。
心の乱れた状態を鎮める→夫婦喧嘩にいい!となったようです。
ペリドットは昔から、金(gold)との相性がよいとされ、金とペリドットは夫婦のようにお互いを輝かせると言われたそうです。
博物館のペリドット
エジプト、プトレマイオス王朝に愛されたペリドット。
あのクレオパトラのいた王朝です。
ローマの十字軍遠征でヨーロッパに持ち込まれ、ドイツのケルン大聖堂のMAGIの3つの聖堂に200CT以上のペリドットが飾られているそうです。
太陽神を崇拝したエジプトでは、”太陽の石”とも言われていました。
暗くなっても輝くペリドットは輝きがエメラルドに似ているため、”イブニングエメラルド”とも言われたそうです。
スミソニアン博物館にミャンマー産の319ctと289ctのペリドットがあるそうです。
”女神ペレの涙”
ハワイでは、マグマの雫が空中で固まったものの中にペリドットがあります。
”女神ペレの涙”と言われます。
この女神ペレは、どんな男性も虜にしてしまうほどの美女ですが、負けず嫌いで気が短く、火山のように怒る!と言われています。
ペリドットはそんな女神ペレの涙。
”熱湯に入れると冷水になる”と言われたペリドット。
いわれを紐解いてゆくと、なぜか離れた地域でもなんとなくにているいわれが…
この女神ペレは伝説で、”噴火の前に人間の姿をして、噴火を事前に知らせていた。”
とも言われています。
愛すべき性格の女神だったのかもしれません。
PERIDOT Brazil 7×9mm 1.68CTS. |
ケルン大聖堂とMAGI(マギ)
ケルン大聖堂は東方の三博士の聖遺物が置かれていることで有名です。
聖遺物とはキリストや聖書に出てくる聖人たちの遺骸や遺品を言いますが、ケルン大聖堂の聖遺物は東方の三博士の頭蓋骨が置かれています。
そしてここで外せないのが新約聖書のマタイによる福音書の第二章。
イエスがヘロデ王の代に、ユダのベツレヘムでお生まれになったとき、見よ、東からきた博士たちがエルサレムに着いて言った。
「ユダヤ人の王としてお生まれになったかたは、どこにおられますか。わたしたちは東の方でその星を見たので、そのかたを拝みにきました。」
ヘロデ王はこのことを聞いて不安を感じた。
エルサレムの人々もみな、同様であった。
そこで王は祭司長と民の律法学者達とを全部集めて、キリストはどこに生まれるのかと、彼らに問いただした。
彼らは王に言った、
「それはユダヤのベツレヘムです。 預言者がこう記しています。~ユダの地、ベツレヘムよ、おまえはユダの君たちの中で、決して最も小さいものではない、おまえの中からひとりの君が出て、わが民イスラエルの牧者となるであろう。~」
そこで、ヘロデはひそかに博士たちを呼んで、星の現れた時について詳しく聞き、彼らをベツレヘムに遣わして言った。
「行って、その幼な子のことを詳しく調べ、見つかったらわしに知らせてくれ。わたしも拝みに行くから。」
彼らは王のいうことを聞いて出かけると、見よ、彼らが東方で見た星が彼らより先に進んで幼な子のいる所まで行き、その上にとどまった。
彼らはその星を見て、非常な喜びにあふれた。
そして、家に入って母マリヤのそばにいる幼子に会いひれ伏して拝み、また、宝の箱をあけて黄金・乳香・没薬などの贈り物をささげた。
そして、夢でヘロデのところに帰るなとの御告を受けたので、他の道を通って自分の国へ帰って行った。
彼らが帰って行った後、見よ、主の使いが夢でヨセフに現れて言った。
「立って、幼な子とその母を連れて、エジプトに逃げなさい。そしてあなたに知らせるまで、そこにとどまっていなさい。ヘロデが幼な子を捜し出して殺そうとしている。」
そこでヨセフは立って、夜の間に幼な子とその母とを連れて、エジプトへ行き、ヘロデが死ぬまでそこにとどまっていた。
それは、主が預言者によって、「エジプトからわが子を呼び出した」と言われたことが、成就するためである。
さて、ヘロデは博士たちに騙されたと知って、非常に立腹した。
そして人々を遣わし、博士たちから確かめた時に基いて、ベツレヘムとその附近の地方とにいる二歳以下の男の子を、ことごとく殺した。
こうして、預言者エレミヤによって言われたことが、成就したのである。
「叫び泣く大いなる悲しみの声がラマで聞こえた。ラケルのその子らのために嘆いた。子らが、もはやいないので慰められることさえ願わなかった」。
さて、ヘロデが死んだのち、見よ、主の使いがエジプトにいるヨセフに夢で現れて言った。
「立って、幼な子とその母を連れて、イスラエルの地に行け。幼な子の命をねらった人々は、死んでしまった。」
そこでヨセフは立って、幼な子とその母とを連れて、イスラエルの地に帰った。
しかし、アケラオがその父ヘロデに代ってユダヤを治めていると聞いたので、そこへ行くことを恐れた。
そして夢で御告を受けたので、ガラリヤの地方に退き、ナザレという町に行って住んだ。
これは預言者たちによって、「彼はナザレ人と呼ばれるであろう」と言われことが、成就するためである。
3つの贈り物の乳香・没薬・黄金の贈り物をしたというクダリ。
このクダリは、時代が進むと3つの贈り物という部分から三博士となり、それぞれに3つの名前バルタザール・カスパール・メルキオールと名がつきました。
また時代が進むとこの3人は東方(東の方)諸国の王との解釈がなされ、時代が進めば進むほど現在の解釈に近づいて行きました。
この東方の三博士を固有名詞としてMagi(マギ)と呼びます。
マギの頭蓋骨があるケルン大聖堂。
聖遺物を見守るように200CT↑のペリドットがあります。
2019/05/14 一部加筆